Diary

第三話:ガヤガヤが心地よいこともある【田中のにんまり日常茶飯事】

友人たちと、異国情緒の漂うダイニングレストランに行ってきました。ピカイチ!と周囲に勧めてきたパンケーキはレシピが変わったのか、田中パンケーキランキングで残念ながら順位を下げました。それでもまた行きたい、とってもごきげんな空間です。味・接客・コスパ…というよりまず、店内の音・雰囲気が好きなのかもしれません。お洒落に、ガヤガヤしているのです。近くの話し声も食器の音も全部が調和して、おいしい空気が耳からも流れてくる、そんな空間です。川のせせらぎでもクラシックコンサートでもなく、そのガヤガヤの心地よさといったら。この感覚って、何なんだろう。街中のあまりのイヤホン率に、もっと自然の音を楽しんだらどうですか、なんてお節介を呟きたくなること、最近ありませんか?かく言う私もイヤホンは着けています。喧騒から逃れて集中できるし、音楽でモチベーションを上げ、癒やされて。いたずらにイヤホン批判をするわけではなく、むしろ、救われる毎日。ただ、敢えてイヤホン時間を減らし辺りの音を聴いてみると、嬉しい発見があるものです。例えばこの間、家からほど近い川沿いを散歩中、ユニークなカラスがいました。幼児の呼びかけ方にそっくりの「ママ~」をたびたび繰り返すカラスです。周辺は公園が多く、遊ぶ子供たちにもよく出会うエリア。そこあそこで、幼い声がお母さんを呼んでいます。カラスが人の言葉を真似る習性をもつのかどうかは知らないけれど、だからあんな鳴き方をするのだ!と理由を決めこんで、一人にんまりするのでした。おしゃべりカラスはいくら耳をすましても出会えないかもしれませんが、例えば今皆さんには何の音が聴こえますか?

私に今聴こえるのは、目の前のパソコン稼働音、家族が見るテレビから流れてくるリポーターの声、網戸の外からはエンジン音や鳥のさえずり、幼児の声。遠くでは重機を使って工事をしている音。あ、猫が廊下をこちらに向かってきた!そんな音もします。不思議です。ほんの少しの意識で、聴こえるようになる、この感じ。

幼い頃から、ふとしたときに頭をかしげていました。いつもは聴こえない音が、ときにうるさいと感じることさえあって、気になり始めると抜け出せないのはなぜだろう?…時計の秒針の音や、家電が発する電子音など。皆さんにも、あるある体験ではありません。他にもあるあるなのは、電車内の読書。集中していれば感じなかった話し声が途中から急に気になり、本の内容がめっぽう頭に届かなくなって、何度も振り出しに戻って読み返し、読み返し…もうだめだ!とイヤホンを着けてどうにかそのループから逃れること…私は多々あります。聴覚のコントロールはなかなかの難易度ですが、心に波風の立たない時ほど、なんだか心地よい音が入ってくる気がします。私自身いつもいつも心穏やかにいられるわけではありません。だからこそ、意識的に心にスペースを用意して、より好きな音を自分の中に響かせられたらと思います。揺れる木の葉の触れ合う音や、そこに加わる鳥や虫の声…

なにも大自然へ遠出をしなくても出会える日常音だったりしますが、心にゆとりをもって耳をすませば、あら不思議、心地よい季節のたよりとなるのです。さらには、身近で楽しめるクセがつけば、旅先ももっともっと楽しめそうな気がしませんか。冒頭のレストランのガヤガヤがなぜ心地よいのか答えは出ませんが、同じ音を心地よいと感じるかどうかは人それぞれ。おしゃべりカラスににんまりするかどうかも、人それぞれ。自分が楽でいられる音、自分が聴いて嬉しい音を、響かせたいものですね。

心のスペース作り、ゆるっと始めます。【写真・文章】田中 弘美

田中 弘美

151画とは面白いつながりがありこの度特集を持つことに。生まれも育ちも東京都ですが都会の喧騒はあまり得意ではなく、緑の中での深呼吸やのどかな街の散歩、飼い猫をのんびり撫でるひとときが癒しです。