Diary
第四話:反対電車のすゝめ【田中のにんまり日常茶飯事】
自他共に認める“すっとこどっこい”の私。とにかくやらかします。多種多様のハプニングで自分に呆れる毎日…よくあるのは「行きたい場所にたどり着けない」ケース。記憶に新しいのは、
・銀座三越の前で待ち合わせ、皆が来ないと思ったら日本橋三越の前にいた私
・北側に15分歩けば着くはずが南側に15分歩いたところで気づき、結局45分歩く(頻繁に反対へ歩いてしまいます)
・乗った電車が反対方面、降車し折り返す
あくまで、ごく一部。やれやれ、気を付けます。とはいえ反対の電車も、なかなかいいモンです。もちろん私のようなうっかりミスを勧めてはいませんが、敢えて、乗るのです。
敢えて味わう、非日常です。ライフスタイルも多様化していますが、決まったルートを往復する毎日、という方は多いはず。私も長く、家⇔学校・職場間だけを行き来する日々でした。
お小遣い生活の学生時代は特にですが、買い物に出かけるにも、友人と遊ぶにも、通う塾を選ぶにも、定期圏内で行ける所からまず探したものです。ルート内のあちこちに面白い街があったので、余計にかもしれません。通学・通勤それぞれ10年以上同じ電車に乗っていたので、たまに近辺へ赴き車窓を眺めることがあるとじんわり温かい郷愁のようなものがずんと響くのを感じます。そういう場所があるのは、ありがたいことですね。
多くの皆さんにもきっとある、毎日の往復ルート。これとは反対方面の電車に乗ってみるだけで、いとも簡単に非日常を味わえるのです。だんだんと移りゆく景色、駅で扉が開くたび流れ入る知らない音や匂い、見慣れない制服や年齢層など乗客の変化…なんか違う、だけで、面白い。できれば途中下車をして、行き当たりばったり、ちょっと珍しい飲み物片手に散策をしたり、初めてのお店でごはんを食べたり、少しぼんやりできたら最高です。むしろ、いつもの飲み物・いつものごはんを選んでも、普段より美味しく感じてもっと気に入ることもあるかもしれません。頭の中がぐるぐる、モヤモヤと…すっきりしないとき、ありませんか?あります、あります。よくあります。そういう時こそ物理的なゆとりもないことが多いですが、敢えて、こんな非日常を挟んでみたりするのです。泊りがけの旅に出るなどと大それたことでなく、空港の展望デッキで空を仰いでみるとか、ダム湖の広い水面を眺めてぼんやりするとか、地図に頼らず目的地を決めない散歩をしてみるとか…“反対電車”に限らず、方法は色々あります。空港などは、匂いや音・空間の広さなど非日常色が強いにもかかわらず、比較的アクセスがよく思いつきでふらりと行きやすい場所だったので、相当お世話になりました。少し思い切ってヘンテコな非日常を味わうと、頭の中がサーっとクリアにリセットされ、日々の迷いや雑多な諸々が急にちっぽけに見えたりもします。反対の電車で普段見られないものを見たり、もくもくと歩いて無心になったり、海や空・自然を感じたり、のなかで、頭と心に余白が増えていくのです。あくまで私の場合、ではありますが。フラットに物事を考えやすくなったところで帰ってくるいつもの駅や街には普段感じられぬ安心感があり、それさえも客観視したときに、「いつも通りの日常はやっぱり貴重だな」と実感できるのです。このような非日常はたまに味わうからこそ効果があって、回数券を買ってまで空港へ行ってしまうと(かつての私の失敗です)新鮮味がなくなってしまい、思うように頭のリセットもできません。ごくごくたまに、がポイントです。ほんの少しの非日常によって、日常が何倍も愛おしくなるのです。
うっかりの反対電車、を私はどうにか減らすよう努めますが、皆さんにはたまの反対電車、おすすめします。ご参考まで。【写真・文章】田中 弘美
田中 弘美
151画とは面白いつながりがありこの度特集を持つことに。生まれも育ちも東京都ですが都会の喧騒はあまり得意ではなく、緑の中での深呼吸やのどかな街の散歩、飼い猫をのんびり撫でるひとときが癒しです。