Diary

第七話:手間がくれるもの【田中のにんまり日常茶飯事】

・起きたらまず、炭酸水を飲みます
・早朝、昨日を振り返り日記をつけるのが習慣です
・花を毎週買って、季節を楽しみます
・毎晩ストレッチをしてから寝ています
・キャンドルを灯しての瞑想が日課です
…あれや、これや。
「丁寧に暮らす」系のコラムなどでよく目にする、素敵な人たちのルーティン。ほう、確かによさそう!マネしてみようかな、と一度は思うものの、その丁寧さをストイックに追求するスタミナがない。そんな、私です。(ちょっとそれっぽい“朝の白湯”なら習慣ですが、単に、やかんに余っているから飲んでいるだけ。知覚過敏なので丁度いいのです。)
かつて「仕事から帰ったら毎晩靴下だけは手洗いすることにしてるの」と言う同僚がいました。 靴下は制服に合わせ規定に沿ったもので、汚れの目立つ色でもなければ繊細な生地でもありません。何の迷いもなく洗濯機へ入れていた私は、えーすごいね!えらい!などと、今思えば薄っぺらい返事をしてしまった気がします。
ところが今や日々の手洗いは、私のちょっとした癒やしの時間になっています。癒やしと感じるようになったのは、あの会話から3、4年経った頃。お気に入りのセーターを洗面台でちゃぷちゃぷと洗っている最中、ふと彼女の言葉が浮かび、当時理由を聞こうとさえ思わなかったそのルーティンに共感をおぼえました。本人への答え合わせはまだですが、彼女は洗濯という単純な目的よりどちらかといえば、自己対話のためにその靴下タイムを設けていたのではないかと思うのです。

一日を振り返り、ポジティブもネガティブも整理して、必要なデトックスをした上で明日への良いスタートをきるための、小さな儀式。優しい彼女のことだから、共に一日を戦い抜いた靴下とも対話をするような部分があったかも(「よく洗いたかっただけ!」と言われそうな気もしてきて…自信はありません)。
私の場合、手洗いは2,3日に一度ですが、まさに対話の時間。水の音や感触、清潔な香りのなかで、綺麗になれなれと思いながら手を動かす。単純作業を繰り返すうちに穏やかで瞑想チックな時間になるのです。機織りなども似たような良さがあると聞きますが、とても貴重なひとときです。
更にそれと並ぶ魅力は、手間暇かけた分だけ愛おしくなる気持ち。靴など革小物を手入れする時間も結構好きですが、世話がやけたものほど、やっぱり愛着がわく。だからこそ手入れを繰り返し、その度に愛着がまた増していく。それゆえなかなか革靴を手放すタイミングを見極められないのが、私の悩みの種だったりもします。
洗濯機業界も進化を続ける今、自分で洗い方を考えてくれたり、スマホで操作できたり。「洗濯日和なのでカーテンを洗ってみませんか?」と話しかけてくる洗濯機もある(いる?)というから、驚いてしまいます。デジタルは苦手、とさんざん敬遠もしてきたけれど、進歩するテクノロジーともうまく共存することで、 人間らしいアナログ時間をもっと生みだしていけたらいいな、と思います。 もっと手間をかけて、今よりもっと、愛せるように。

【写真・文章】田中 弘美

田中 弘美

151画 web storeの企画や運営、プライベートフォトサービスのコーディネーターをしています。生まれも育ちも東京都ですが都会の喧騒はあまり得意ではなく、緑の中での深呼吸やのどかな街の散歩、飼い猫をのんびり撫でるひとときが癒しです。