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【対談】演出家 村本大志:演出すること、経年変化していくこと
村本大志さんは、映像に関わるプロフェッショナルとして、数多くの大規模なCMの企画・演出を手がけていて、映画『AMY SAID エイミー・セッド』では映画監督をされております。また、2007年にジーンズブランド「Downnorth Jeans」を立ち上げmade in Japan にこだわったデニムを作っていらっしゃいます。今回は、そんな多岐に渡って活動される村本さんの日常風景を151画として撮影させていただき、演出と自然体に関して、また、日常や経年変化などのキーワードから対談を行わせていただきました。終始、村本さんには傍らにいるのは愛犬のジャックです。
【プライベートと仕事】
江:今お仕事でメインとされているものってありますか?
村:どれがメインってものはないです。
江:そうしますとプライベートと仕事の境はありますか?
村:演出家っていうのは役割というかキャラクターがあるから、普段ジャックと過ごしているときとまったく違いますよね。
江:仕事ではむしろなりきるという部分もあるんですね。
村:簡単にいうと演じてるっていうことですね。
江:時間も明確に分かれていて、もはや人格までもが変わるイメージでしょうか?
村:一人で考えているときとかはアレですけど、要するに監督とかの役割でいるときは、声も違うとおもう。今よりももっと強いと思う。
江:デニムのプロジェクトは仕事という感覚ではないですか??
村:デニムは売っているので仕事といえばそうなんですけど、やっぱり好きなものを自分の手で作る、要するに全部自分が決められる。映像の仕事とは違いますよね。もちろん工場の人やパタンナー、ショップの人と協力をしたりっていうことはあるんですけど、ものを作る上では全部自分で決められる。
江:それではどちらかといえばライフワークというか趣味みたいなものですね。
村:そうね、売れればねもっと楽しいのかも。でも売れればいいのかというのもまた難しい。超似合わない人に履かれたりすると異常にブルーになったりもする。
江:(笑)
【演出と自然体】
江:私たちは、151画という日常や日々を残していくというサービスを行なっておりまして、このサービスについていかが思われますか?
村:いいサービスですよね。151画さんのポリシーや考え方や作品をサイトや木島さんを通して拝見したり伺ったりして、
江:そうしますとリアルなところを一般の方で撮ろうとしたら、本当にリアルかもしれないけど世の中への伝わり方から見たらずれが生じる可能性が大いにあるということですね。
村:今時の素人はけっこう撮影慣れしてるふうなんですけど、わざと大きいカメラとか使ったりすると、ちょっとテンション上がって女優さん気分になれたり。すっごい可愛いとか言うだけで可愛く撮れたりすることもある。CMだけでいったらそう工夫をしていかないと大体短いスパンで撮影していくから撮れないとだめ。撮るためになんでもやる。
江:そうすると日常を自然体で撮るということに関してはまた違う視点をお持ちですね。
村:私だったら自分の日常をちょっとよく撮ってもらいたい。女の人だったら可愛く無いより可愛くとってほしい。笑っているところとか。それがドキュメンタリーなのかフェイクドキュメンタリーなのかの微妙な境界線のところでどちらに寄せるべきなのかってことですよね。線引きする必要は無いですけれど。
江:マクロな視点で見ると、撮り手の意向が入った瞬間に演出ですもんね。
村:すべてのドキュメンタリーで演出はいってるから。カメラアングルとか。切り取り方で作為とかでるんで。また、誕生日などの特別な日も日常なんだって思います。たまたま12月5日が誕生日なだけ。4日と5日は何も変わらない。たまたまの一日だったりするから価値があるのかもしれないですね。
【日常で演出を捉える】
江:ちなみに村本さん的には日常とか暮らし、日々というワードをどの様にとらえてますか?
村:日常だとジャックと散歩してこの辺で買い物して家で食事をつくるのが日常かな。朝起きて自分でコーヒーを入れるとか。本当そういうなんでもない時間が日常かな。
江:ちなみに先ほどの話から演出を仕事で常にされていると、日常にその感覚が落ちてくるということはありますか?
村:それこそやっぱり僕の目線は、演出することでコミュニケーションや見える世界が良くなる感覚なんです。多分なんですけど、なにかちょっとプラスオンしてあげること。散歩であったおばさんとかにも、それ暖かそうですね。とか、サイズ感いいですよね。とか基本だれでも褒めますよね。コミュニケーションとして。そう思ってなくても(笑)。できれば思っている言葉のほうが本当の気持ちで言えるからいいんですけど。あんまり思って無いことは言えないんですよね。
江:そんな時はどうしますか?
村:とりあえず犬のなにかを褒めたり、何か探しますね。出会った瞬間に。女の人にあったら指輪をしているかまず最初にみる。ミセスかミスか。それを話題にどう触れるかどうか。
江:なるほど。
村:ミセスだったら子供がいるのかいないのか話題の中で触れていく。結婚してない人に結婚している体で話していったらなんか傷ついていくじゃないですか。それは瞬間的になんかみますね。とんがっている靴を履いてるかどうかとか。とんがっていったら嫌だなとか。
江:ポストマンシューズということですね(笑)
村:ポストマンじゃなくてもいいけど(笑)先の尖ったイタリア系のシューズを履いているやつは基本きどっている奴なんだなって思いますね。
江:それを言えるのはめちゃくちゃロックですね(笑)
【映像と写真の相違点】
江:映像と動画の違いってどう捉えていますか?
村:写真はやっぱり一瞬。動画はシーンになりますよね。例えばこうやってジャックだと、見てる顔とか加えた瞬間とか噛んでるところは絵にならないってなる。でも噛んでるところが想像できるように撮るのが写真家だと思う。動画は食べているところ。シーン。全然違うんですよね。僕も昔写真部で自分で現像したりしていたんですよ。大学の暗室で白黒を焼いていた。
江:おおお! その時はどのような写真を撮っていたのですか?
村:その時はライブの写真とかが好きだった。一瞬を音楽が聞こえてくる様なイメージで撮りたいって思っていた。やっぱり音楽がなってるなかで撮ると自分の気持ちも上がるからそれが楽しかった。今写真はジーパンのHPで僕が写真を撮ってるんです。でも古いデジカメを知り合いのカメラマンから譲ってもらって。それでもHPぐらいとかポスターをつくったりとかは十分。白黒にして固めにしたりとかすれば。
江:今での全てが繋がっておりますね。ちなみに写真家って今後どうなっていくと思いますか?
村:今インスタとかみてるとビジネスとかの形がすごく変わってきているじゃないですか。少し前はフェイスブックで気づいたらインスタになっちゃった。最近知り合ったカレー屋さんなんかもインスタで集客して予約取ってカレーうどんのコラボとかしてね。話をしていたらインスタで全部やりとりしているって。根本的に一日で200人さばこうとか思って無いわけ。もっとスモールビジネスで顔の見える人たちで回していきたいって思っているんですよね。そういう人は見せ方が上手だったり演出が上手だったりするよね。でも、写真家はプロフェッショナルなのでそれを超えていかないといけない。そうなるとssとか絞りとかそういうのを瞬時にやれる人とか、どっしりした絵をとれるとか表情引き出すのがうまいとか。
江:本当そうなんですよね。それを超える技術やマインドが必要。
村:ジャックを例にすると、ジャックは早いけどプロは追いつけるとか。飛びついた一瞬とか撮ったときにこんなジャック見たことないよとかね。2ショットの捉え方とかね。シャッターチャンスや光の捉え方とかやっぱ素人とは違うぞと。
江:その写真に撮影者のエゴがでていることにはどう思いますか?
村:エゴがでてても「こんなん撮っちゃったんですよね」とか、冬の冷たい水で洗い物をした手がすごく素敵だったとカメラマンが思って撮るんだったらそれはそれがいいと思う。子供が鼻水たらしてても可愛いと思えば。貧乏に見えなければ。それはセンス。愛情持って撮れるか。
江:愛情は本当に重要ですよね。
【今を見つめることと経年変化】
江:色々多岐にお仕事されている中での時間の概念をお聞きしたいんですけど・・・過去、未来、今っていう時間軸があった場合にどこを見ていることが多いですか?
村:やっぱり今じゃないですかね。あんまり過去や未来は見無いかな。
江:昔の作品とか見たりもしないですか?
村:見無いですかね。もうあんまり興味が無いかな。撮っちゃったものに。写真は見返すことがあっても映像はない。自分のものに関しては。昔の人の映画とかは見るけどね。
江:ただ、デニムは今の価値ではなく経年変化をすることでの価値もありますよね。
村:そういう意味では結局新品の時ってそれはそれでいいんですけど、時間経ってからがもっといいんですよ。その人なりの履き方で変わってくる。写真は焼けば紙にされるじゃないですか。でも映像って触れることができないんですよ。フィルムに関しては撮ったものが写っていてそれを見て編集するんですけど、ビデオテープになってデータになって触れられないんですよね。
江:物理的に難しいといことですね。
村:触れ無いものをずっと作ってきてすごく虚しくなったんですよね。虚業っていって要するに口先だけで、「いいじゃないですか」「きれいっすね」「いい芝居でしたね」とか本当に思って無いことを口にしてその場をやり過ごして生きてきたっていう・・・。まぁそれも演出なんですけど、本当に思っていることを伝え合って関係をつくる時間が無いから。相手を凹ませて叩きのめしてから立ち上がらせるまで待ってる様な時間もないしする意味もないじゃないですか。そうするとまさに虚業だなっていう。それで触れるもの作りたいなって思い、始めは演劇をやろうと思ったんだけど、自分が役者を集めようとするとすごくお金がかかるってわかって、そのお金で次に好きなもののジーパンを作ってみようと思ったんですよね。こんなにジーパン好きなんだったら自分で作ればいいんじゃないかなって。知り合いのスタイリストにパタンナーさん紹介してもらって、日本酒好きな人が酒蔵訪ねたりとかワイン好きなひとがワイナリー尋ねるような感じで。それで知り合った老舗工場の人に実はジーパン作りたいと思っていることを相談したら村本くんが作るならいいよって協力してくれて。それで触れられるものをつくった。やがて捨てられるものですけど、数年間体型さえ変わっていかなければ色がかわったりと経年変化していって最初買ったときよりも数年後のほうが愛着がわく。理想論でいうとそういうものを作りたいなと思って始めましたね。
江:大きく変わりますね、データと触れられるもの。
村:触れるものっていうのは圧倒的に違う。写真でいうとデータでこんな感じですって送ったものかプリントされたものか。プリントや額で飾ってるものとiPhoneの中でしまっているものは同じ写真であろうとまったく違う。それが画廊でなくても。
江:紙のペラでもいいわけですよね。
村:そうそう。画鋲やマグでピッて冷蔵庫やトイレに貼ってあっても作品。ジーパンも工場から出荷されてきた状態や押入れに積んであるだけでもダメで、裾上げでその人のものになってから本当のバースデーになる。写真も撮ったときにはまだカメラマンのものでしか無いけれど、セレクトされて。その段階でカメラマンの目が入る。今デジタルだからカメラマンがセレクト放棄しがちだと思うんだけど、昔は厳選することがもっとシビアだった。現像とかにお金がかかってたから。今は時間はかかるけどお金はかかっていないから。セレクトしてどんな風に飾るのかとか考える、それがプロダクトとしてだいぶ違うと思う。その差がビジネスかもしれ無いですね。データも便利だから好きな音楽つけていつでも観れる様にしておくとかもいいかもしれないけど、僕の今回のお気に入りの写真はこれです。私の作品はこれですみたいに。
江:アート性が重要っていうことですよね。
村:データってやっぱり存在が軽いんですよね。カメラマンのサインが鉛筆で入っていたりするだけで同じデータだけど違く感じる。そこがたぶん、なんかいっぱい世の中に写真サービスあるじゃ無いですか。二十歳の着物の撮影とか貸し衣裳やでやるけどすごいルーティーンで行なってる。親にすごい買わせようとして。それってなんかネガティブな写真をとってるみたいな感じで。
江:写真や思い出の本質が何なのか・・・という感じですよね。
村:そうですそうです。もうマネーすぎるんですよね。たぶん作品なんて1ミリも考えてないから。それがすごい分かるんですよ。どっかで私たちを通して作品があると思ったほうが豊かじゃないですか。撮られたほうも撮ったほうも。何枚プリントするといくらですみたいなチャージのためのあれじゃなくて。今回撮影させてもらって一番いい写真ってこれなんですよっていうの撮った方と撮られた方の満足度が一致したらそれはとても素敵なんじゃ無いかとおもう。
江:頑張ります!それだとプロの存在意義がありますよね。
【ジャックと過ごす日々】
江:ジャックを通じて知らない人とのコミュニケーションが生まれるってすごいですね。
村:ジャックが来るまで犬とかいなかったんで、知ら無いおばさんと話すということはなかったんですけど、ジャックが来てから平気で話しかけてくるんですよね。最初はすごい戸惑った。とくに人見知りってわけではないけど知らない人に声かけるっていう感覚がなかったけど今や全然知らない人にも声をかける。
江:それはポジティブですね!
村:すごい変化しましたね。近所の公園とかでも僕は犬のおじさんって呼ばれてる。
江:(笑)
村:ジャックも10歳なんで残りの人生が短い訳ですよね。人間とちがって一緒にいる時間っていうのが短いからこういうふうにとっていただけたのはすごい嬉しいですよ。
【写真】江守勇人、木島夕貴
【対談】村本大志 / 演出家、 江守 / 151画フォトグラファー
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江守 勇人 / 木島 夕貴
151画フォトグラファー兼ライターの二人組。プロフェッショナルとして写真や日常というキーワードと日々向き合い、様々なことに見つめ直しています。
日常風景の出張撮影 「151画」
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